言葉も文化も、アンティークも
体験しなければ価値は理解できない

ワールド通商 代表取締役 河合寿也氏インタビュー(前編)

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1992年の創業から、瞬く間に世界的な高級機械式時計ブランドとしてその名を轟かせた「フランク ミュラー」。その日本輸入総代理店である「ワールド通商」の代表取締役・河合寿也さんにインタビュー。

 

――英語とフランス語がご堪能だと伺っています。外国語を学ぼうと思われたきっかけは何だったのでしょうか?

 

仕事の関係で海外にいることが多かった父の影響で、小さい頃から海外に憧れがあり、英語だけは一生懸命勉強していました。父はよく私に「外国語ができたり、特殊な技術を持っていると、仕事で海外にたくさん行けるよ」「どこの国に行っても知り合いがいるから不自由しないんだ」と話していましたね。そんな父の姿を見ていて、いつか自分も海外に出で仕事をしたいと思うようになりました。

 

――学生時代にフランス留学をされていますが、なぜフランスだったのですか?

 

高校3年生の時に突然、父が「みんなでフランスに行くぞ!」と言い出したんです。その時、私は日本の大学に推薦入学が決まっていたのですが、父の「今の世の中、海外の国の言葉をひとつやふたつも話せないと通用しない。とりあえず行くぞ」という言葉に後押しされ、渡仏を決意しました。高校卒業から1週間後にはフランスにいましたね。

 

 

 

――フランスでの生活はいかがでしたか?

 

最初はとても苦労しました。全寮制の学校に入学した初日に、寮長から寮生たちに自己紹介するよう求められたのですが、「Hello」と言うのが精一杯。フランス語は全く分かりませんし、英語を勉強していたといっても使ったことはなかったので。それからも苦労の連続でした。寮では最初の2週間だけ英語の使用を認められていましたが、それ以降、英語は使用禁止だったので、常に辞書を片手に単語を調べながら話していました。

 

――そのような状態から、どのようにフランス語を習得したのですか?

 

実は、最初に習得したのは英語でした。夏休みに入り夏期講習が始まると、世界各国から学生が集まってきて、学校がインターナショナルな状態になるんです。授業中はフランス語ですが、それ以外の会話はほとんどが英語。その時に「相手の英語を耳をふさがずに聞こう」「知っている英語だけでも拾おう」と思ったら、何を話しているのか理解できたんです。話すことに関しては、口を閉じてしまったら永遠に自分の気持ちは伝わらないと思い、とにかく知っている単語を並べました。英語は、その夏休みの期間で、ほぼ話せるようになっていましたね。

 

フランス語も同じです。学校生活を送るうちに自然と身についていました。言葉は、単語を並べるだけでも伝わるんですよ。例えば、うちの父は、英語だけでなく、フランス語、スペイン語、ブラジル語もできますが、ネイティブのようにカッコイイ発音ではありません。私は、それを見習って「カタカナ英語でもいいから、しっかりと話そう」と思いました。ですから、今も私の話す外国語は適当だし、カッコイイ発音でもない。でも仲間同士なら充分通じますし、仕事でも不自由な思いはしていません。

 

環境は整っているのに英語を話せないという人は、気後れしてしまい心を閉ざしてしまうのだと思います。私は、幸い学生でしたし、遊びながら、相手ととっくみあいながら、オープンに話しをしていました。留学して成功する人と成功しない人との差というのは、オープンになるか、殻に閉じこもるかではないでしょうか。

 

――その後、どのような経緯で今の仕事に辿りついたのですか?

 

全寮制の学校に1年程通った後、フランスの大学に入り、卒業後も海外の生活が楽しくて、フランスに残っていましたが、父が「日本の企業に入って、海外で仕事をするという選択肢もあるから、一度帰ってこい」とアドバイスをくれたんです。それで、日本に帰り、アンティーク時計の輸入会社に面接に行きました。面接で「何でもいいから、何でもやるから働かせてくれ」と言ったら、気に入ってもらえたのか「今日から働きなさい」とその場で採用され、そこで今の仕事に通じるノウハウを身に付けました。 その後、ワールド通商に移籍し、2013年4月に前代表からの指名を受け、現代表取締役に就任しました。

 

――ワールド通商では、どれくらいのレベルの英語やフランス語を求められるのですか?

 

仕事で不自由なく話せたり、契約書を読めたりするレベルまでは求めていません。ただ、年に1度、ジュネーブで行われる時計のフェアで、相手の言っていることをある程度理解できるといいですね。新作発表で時計の説明をしてもらう際、同行者の大半は「英語は分からないから」と聞く耳を持たずに、私が訳すのを待っているんです。これは、とても無駄だと感じますね。私の訳では100%相手の想いを伝えることはできません。どんな想いで作ったかという情熱をダイレクトに理解できれば、「これは凄い時計だ! 一生懸命売ろう」と思うはずなんです。ですから、最近はあまり通訳せず「できるだけ自分たちで聞き取りなさい」と言っています。

 

また食事の席でも、香港やシンガポールのスタッフは、イタリア人やスペイン人と普通に会話をしていますが、日本のテーブルは日本人同士の狭いコミュニティになりがち。これも、とても残念な光景だと感じますね。完璧な英語は求めていませんが、コミュニケーションを取れるようになってほしいとは思っています。我々の会社は輸入業ですし、外国のお客様もいらっしゃいます。ですから、部署によっては「英語力は必須」とプレッシャーをかけています。

 

 

 

 

――社員に語学以外に求める能力はありますか?

 

ありきたりの言葉で言えば、常に向上心を持って欲しい。我々の扱っているものは、非常にラグジュアリーな商品です。ですから、無理をしてでも自分自身がラグジュアリーな世界に足を踏み入れないと、お客様の価値観を理解できないと思うんですよね。例えば、飛行機でエコノミーしか乗ったことがない人は、エコノミーレベルのサービスしかできない。ですが、一度でもファーストに乗れば、「ファーストクラスのお客様が求めているのはこれなんだ」と理解して、質の高いサービスを提供できるはずです。

 

言葉も同じです。日本に留まっていては、日本語しか話せない。私は、父のおかげで海外を見ることができ、「やっぱり日本ってちっぽけな島国なんだな」と実感しました。日本を悪く言うわけではありませんが、たくさんの日本人が海外に出て視野を広げたら、素晴らしい国になるだろうと信じています。

 

 

 

河合寿也(かわい・としや)

ワールド通商株式会社 代表取締役。1993年、仏国立Cean大学 仏語科卒業。仏語と共に現代アート・ヨーロッパ経済を学ぶ。ヨーロッパの文化を日本に啓蒙したいと志し、1993年、当時FRANCK MULLER GENEVEの日本輸入総代理店であった笄兄弟社へ入社。1998年、フランク ミュラーの代理権の移行とともにワールド通商へ移籍。現在に至る。

 

 


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