TOEIC®満点芸人 石井てる美さん(後編-2)
「エリート街道を捨て、夢を選んだ理由」

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取材・文/甲斐真理愛(編集部)

 

――石井さんの英語力でも厳しかったですか?

 

そうですね。大学では私も英語ができているつもりでしたが、マッキンゼーはゴリゴリの帰国子女とかそんな人ばっかりでしたし。
さらに良くないのは、私はそんなにリスニングができていないわりに発音は良かったので、周りから英語ができる人だと思われていて。例えば、カタコトの外国人が失礼な日本語を使っても「この人は日本語が上手じゃないから」と大目にみてもらえるじゃないですか。でも私は発音がいいせいで、失礼な言い方をしたらただのKYな人だと思われてしまって(笑)。

あとは、小さい話ですけど、クライアントに「ハーイ!」って挨拶したら、のばさずに「ハイ!」って短く答えろと指摘されたんですよ。でも、そんなこと知らないし。やっぱり母国語以外のコミュニケーションは難しいですね。
マッキンゼーでは、そうやってクライアントに出向くことと、英語でコミュニケーション出来ないってプレッシャーでも押しつぶされていました。

 

――その後、マッキンゼーを辞める決断をした石井さんですが、憧れの企業を辞めることにためらいはなかったのでしょうか?

 

ためらいがなかったわけじゃないですが、よく考えたらコンサルにずっと憧れていたわけじゃないし。要は、「私のやりたいことじゃないじゃん」という原点に立ち返って決意しました。 マッキンゼーは途中でMBA(経営学修士)を取りにいく人も多かったり、その先のステップアップを考えて働く場所なんですけど。私はマッキンゼーを辞めた時、MBAを取りたいとも起業したいとも思いませんでした。
そして、そのまま何となく正攻法のルートを歩むより、ずっとやりたかった芸人を目指そうと決意したんです。

私は子供の頃からお笑いが好きで、「生まれ変わったら芸人になりたい」と思っていました。ただ、企業で働いて生きていくのが正しい道だと信じていたので、芸人を目指すなんて“イタイ人がやること”くらいに思っていました。だけど、マッキンゼーで究極的に追い込まれたら、ステータスとか人生のレールとか、どうでもよくなって。芸人で失敗しても死ぬワケじゃない、それならやりたいことをやろうと。

今になって思うのは、追いつめられた時こそ、やりたいことと向き合うチャンスだということです。私はマッキンゼーの経験がなかったら、芸人という夢に踏み出せなかったですから。まぁ、今は貧乏だし、色々あるのでなんとも言えないですけど(笑)。ただ、やりたいことをやっている。だからいつ死んでも後悔しないとは言えますね。

 

マッキンゼーの経験を経て、本当にやりたかった夢にたどりついた石井さん。TOEIC®満点の英語力を活かして、英語ネタにも挑戦したいとのこと。今後の活躍が楽しみです!

 

■プロフィール
石井てる美(いしい・てるみ)
ピン芸人。1983年東京生まれ。2002年、東京大学文科三類に入学。同大学工学部卒業、同大学院終了後、2008年、新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。同社を退社後、2009年、ワタナベエンターテイメントに所属。現在はお笑い芸人として活躍中。著書に『私がマッキンゼーを辞めた理由−自分の人生を切り拓く決断力−』(角川書店)がある。
●石井さんのブログ『てるてる日記』http://d.hatena.ne.jp/gotoshin_terumi/

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