『目標設定』で成果をつかむ!
英語教育の『CAN-DOリスト』とは

文部科学省担当者に聞く!

日本では英語が義務教育化されているにも関わらず、卒業時に“英語を話せる”学生が少ないことが問題視されてきました。そのような状況を改善するため、文部科学省では、外国語教育における様々な体制整備に取り組んでいます。そのうちのひとつが、“英語を用いて何ができるようになるか”という視点で学習到達目標を設定する『CAN-DOリスト』の作成です。今回は、各学校に推奨している『CAN-DOリスト』の詳細について、文部科学省外国語教育推進室長の田渕エルガさんにお話を伺いました。

 

――世界的基準からみても、日本人の英語力は低いとされています。この理由について、文部科学省としての見解をお聞かせください。

 

諸外国に比べて英語に触れる機会が少ないことが原因だと考えられます。例えば、英語を母国語としない北欧では、テレビ番組は吹き替えではなくすべて英語で話され、母国語の字幕がつきます。学校から家に帰りテレビをつけると、自然と英語が耳に入ってきます。しかし日本では、よほど積極的・能動的に英語と触れ合おうとしない限り、授業以外に英語を使用する機会がありません。そのような環境が、英語力向上の妨げになるひとつの原因だと思われます。

また、英語を単なる“教科のひとつ”として勉強している子供が多いことも原因として挙げられます。『英語を使って何ができるか、何がしたいか』というよりも『いかに良い点数を取るか』が、学習の動機になってしまい、テストで重要視される文法や読解中心の学習になりがちです。そのため、コミュニケーションにおいて英語が必要だと意識できる機会が少ないのです。

 

――そのような課題を解決するために、『教育環境の見直し』が必要なのですね。

 

はい。振り返りますと、学習指導要領に『コミュニケーション』という言葉が入ったのは平成元年でした。学校の先生方は、自分自身が生徒だった頃にはあまり経験しなかったような授業をすることを求められるようになり、試行錯誤が始まりました。英語を知識として覚えさせるのではなく、その知識を使って何ができるかを教えなければなりません。例えば、『過去形を覚える』のではなく『過去の事象を伝えることができる』ようになるための授業を行う、という発想の転換が必要なのです。よく言われることではありますが、『教科書“を”教える』のではなく、『教科書“で”教える』ということです。

そのためには、指導者側が指導方法・評価方法を『目標準拠』に変えていく必要があります。そこで文部科学省では、各学校に対して『CAN-DOリスト』の作成を推奨し、そのための手引きを取りまとめました。

 

――『CAN-DOリスト』とは、どのようなものですか?

 

『CAN-DOリスト』は、英語学習の要素を四技能(読む・書く・聞く・話す)に細分化し、各学校がそれぞれのレベルに応じた学習到達目標を作成するというものです。

例えば、四技能のうち『読む』であれば、『物語を読んで、あらすじを読み取ることができる』などが考えられます。『CAN-DOリスト』の作成自体が、『何ができるようになれば英語コミュニケーション力が向上するのか』を意識するきっかけにもなるのです。

 

――しかし、英語学習の要素を細分化するということは、時間を要する煩雑な仕事になるかと思いますが、現場指導者の方の負担という面ではいかがでしょうか。

 

この『CAN-DOリスト』はあくまでも手引きであり、完璧なリストを作る事が目的ではありません。作成自体が指導者の負担になったり、一律のものを配布して生徒のレベルに全く合わないものを押し付けるだけになっては、当然目標も達成されず意味がなくなってしまいます。完璧なものをつくることを目指さず、まずは各学校のレベルや状況に応じて『目標を見直す』ことが大切です。

また、『CAN-DOリスト』は英語教育に関わるすべての教員が集まって内容を詰めていただくよう推奨しています。そんな中、実際に集まってリスト作りをした先生方からは、「話し合う場をもち、リストを作るまでのプロセスにも大きな意味があった」という報告もありました。最初は難しく感じるかもしれませんが『学習目的』を意識するというだけでも、改善点が見えてくるきっかけになると思います。

――『何のために勉強しているのか』、『英語ができるようになったらどんな事がしたいのか』という目的意識をもって学ぶことができるようになれば、実力にも反映されてくることでしょう。『CAN-DOリスト』が、英語教育改革の大きなきっかけになることが期待されます。

 

取材・文/坂口弥生


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