グローバル基準のライフワークバランス
〜前編〜
ライフワークバランスコンサルタントに聞く
グローバル人材が実践すべきこれからの働き方
昨今「ワークライフバランス」という言葉を耳にする機会が増えている。「ライフワークバランス」と聞くと、人生は仕事だけじゃなくて、プライベートも大切! 仕事が中途半端でもいいから自分のライフを充実しようぜという「ゆとりのある働き方」を思い浮かべる人もいるかもしれない。しかし、「ライフワークバランス」は、決してなまぬるい働き方を指すのではなく、企業において効率と生産性をあげるための経営戦略なのだ。この「ライフワークバランス」は日本経済の存続はもちろん、日本企業のグローバル化において欠かせない施策となっていくだろう。この記事では「ワークライフバランス」とは一体何のことを指すのか紹介する。
ワークライフバランスとは
「仕事と生活の双方の調和の実現」
内閣府は社会の活力の低下や少子化・人口減少への取り組みとしてワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を提唱している。
ワークライフバランスはなぜ必要なのか
株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長小室さんの国際女性ビジネス会議での動画がとても端的でわかりやすい。時間があればぜひ見て欲しい。
1970年代の日本は、国民の平均年齢は若く働き手にあふれそれ故、人件費は安く、物は作れば作るだけ売れる経済発展の時代だった。ハーバード大学のデイヴィット・ブルーム教授によると、このような時期を「人口ボーナス期(※1)」と呼ぶ。
この時期の産業と言えば、重工業の比率が高く、筋肉がついている男性が労働に適していた。市場はインフレ状態で物は作れば作るだけ売れるので、時間をかければかけるほど成果が出る。そして、同じようなものをたくさん作るということにニーズがある時期なのでなるべく同じ条件の労働者をそろえたほうが良かった。また、労働力は余っているため企業のパワーが強く、均一な条件で労働者をふるい落すことができた。当時の日本企業は、出張、転勤、残業の3つでふるいにかけて、根性があってついてきた人だけを残し、忠誠心を高めるという戦略を用いてきたと言う。
しかし、90年代に入ると「人口ボーナス期」は終焉を迎え、日本は「人口オーナス期(※2)」に突入する。この時期は高齢者が多く若者が少ない。つまり若者にとって高齢者の生活を支えることが負担になり、社会保障費が膨大になる。物はあふれかえり、均一な物には市場が飽きていて売れなくなる。そのため企業はひとつの商品に頼ってしまうと売上が下がるので、次々と違う商品やサービスに付加価値をつけて短サイクルで出していかなければならない。その際、雇用に関しては、頭脳労働の比率が高くなるので、多様性が問われ、男女共に働いたほうが良く、労働者は不足するので、労働力はすべて使うことが大切で、時間の単価が高騰するためなるべく短時間で働かせることが企業にとって大切になるとのことだ。
※1 人口ボーナス期
労働力人口が沢山。社会保障費が安い。世界中から仕事を集めることができる
世界中からきた仕事を早く安く大量にこなして、世界中に物を売ることができる
人口ボーナス期の働き方
重工業の比率が高いため筋肉のついている男性がなるべく沢山長時間働けば働くほど成果が出る
※2 人口オーナス期
経済が豊かになり、親は子供に教育投資をする。そして教育レベルが上がると、人件費が上がり、世界中から仕事が集まらなくなる。この後、GDPが伸び悩み横這いになる。日本はこの典型の道を辿っている。
人口オーナス期の働き方
頭脳労働が増え、なるべく多様で男女共に働いた方が成果が出る。商品やサービスに付加価値をつけることがビジネスになるのでクリエイティビティが必要。また、時間賃金が高いので、企業は短時間労働にインセンティブを与えた方が良いとされる。
日本が抱える問題
少子高齢化がすすむと労働力人口は当然減少する。少子化の原因の1つは70年代に成長した成功モデルに引きずられて長時間労働を改善できなかった労働環境にある。長時間労働と少子化の因果関係を説明すると、例えば、夫が長時間労働のまま妻が働きに出ると1人目を出産した時点で妻は育児と仕事の両立の壁にぶちあたり2人目以上生むことを考えられなくなる。また、育児休業をとって復帰しようとした女性が子供を預けるところが見つからないという待機児童に対しての問題もある。2017年には団塊の世代が70代に入り、団塊ジュニア世代は親の介護をしなければならなくなってくる。企業によっては育休で休んでいる女性よりも介護で休んでいる団塊ジュニアの男性が超える可能性もある。この時期には育児・介護と並行して仕事を続けていかなければならないのだ。そのため「人口ボーナス期」のように、条件を決めて労働者をふるい落してしまったら、労働力がなくなってしまう。個々の多様性を受け入れ、彼らの能力を生かす環境がつくれた企業は一番優秀な人材を集めることができて、はじめて経済的発展が可能になるとのことだ。
グローバル基準のワークライフバランス後編では、株式会社ワーク・ライフバランスのコンサルタント大西さんに海外やグローバル企業における「ラフワークバランス」の取り組みや、「グローバル人材」になるための働き方を伺っていく。乞うご期待!
構成・文 高石真帆
取材協力 ワークライフバランス株式会社
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