英語力を活かして働くビジネスパーソン【翻訳家編】

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取材・文/甲斐真理愛(編集部)

 

英語力を活かして様々な職業で活躍するビジネスパーソンを直撃する、インタビュー企画。今回は、映像翻訳家の女性に、今の職業に就くまでの経緯や、お仕事内容について詳しくお伺いしました。

 

映像翻訳家・長瀬由佳さんの『キャリア・英語スキル年表』


◆中高時代から英語が好きで、高校時代は英語コースに在籍。 

◆1999年4月:名古屋外国語大学入学。
大学1年の終わりに4週間、語学留学でニュージーランドへ。そこで「英語の文法は分かるけど、全然、英語を話せない」と思い知る。
大学3年時に休学して1年間、アメリカのシアトルに留学。
また、卒業前に半年間、ノースカロライナに留学。計1年半の留学を経験。
★留学先では、大学のビジネスコースでファイナンスなどを学んだほか、証券会社や政府機関などでインターンシップをし、仕事で使える程度の英語力を身につける。
※この頃、TOEFL®、TOEIC®の試験も経験。特別な学習などはせず、試験1ヵ月前から過去問をひたすら解くなど地道な学習をしていた

◆2004年4月:社会人生活スタート。不動産関係の経営コンサルタントとして働く。英語が必要な仕事ではなかったため、日常で英語を使うのは、海外の友人とメールするときくらい。「英語をすっかり忘れてしまったな」と感じたことも。

◆2009年8月:経営コンサルティングの仕事をしながら、国際NGOで翻訳のボランティアをはじめ、翻訳の仕事に興味を持つ。

★翻訳家を目指したきっかけと、翻訳のボランティア活動について
 翻訳家を目指したきっかけはNGO(開発途上国への援助活動をする非政府組織)のボランティアで、支援の現場から届く報告書の翻訳を経験したことです。
ボランティアを考えたのは、留学先でアフリカ出身の子が、「内戦で家族や友達を亡くした」と話してくれて、そんな困難な状況にいる人の助けになる活動がしたいと思ったからです。それで、色々と調べて翻訳のボランティアを見つけて、「私は多少なりとも英語が分かるし、これなら何とかできるかもしれない」と思い、挑戦しました。 そのボランティアは今も続けていて、仕事と全く違う内容の英語を使うのでいい刺激になるし、息抜きにもなっています。

 

◆2011年2月:コンサルティング業界から翻訳業界へ。英語力を取り戻し、翻訳の基礎知識をつけるべく、実務翻訳チェッカー(翻訳者の訳文を確認する仕事)を始める。

★実務翻訳チェッカーの仕事と、『日本映像翻訳アカデミー』の学習を両立
翻訳家になる決意をしたものの、英語力に自信がありませんでしたし、「本当に翻訳家になれるかな」と、不安に思う気持ちが大きかったので、「翻訳の実務経験を積めば、少しは自信がつくかも」と考えて仕事を探しました。ただ、最初に希望していた実務翻訳の仕事は経験者しか募集していなかったので、未経験者の募集もあった翻訳チェッカーの採用試験を受けて、何とか合格できました。
私が採用されたのは、財務や法律、アパレル関係など、あらゆる業界と取引のある翻訳会社で、業界によって使う言葉もチェックポイントも変わるので、覚えることが盛りだくさん! 例えば、法律関係だと、誤認のないよう原文をきっちり訳すとか、ファッションブランドのプレスリリースは、読みやすい訳文にするとか。そういう業種による翻訳の仕方、チェックポイントの違いなどを徹底的に教えてもらいました。
私は「とりあえず実践!」という感じでチェッカーの仕事をスタートしたので、最初は何をするにもすごく時間がかかっていました。それでも、とにかく仕事の数をこなさないとクオリティもスピードも上がらないと思ったので、学校の課題が忙しくても、時間をやりくりして出来るだけたくさんの仕事を受けました。学校では、毎週課題が出るし、それに対応しながら仕事をこなしていくのが大変でした。

 

◆2011年4月:『日本映像翻訳アカデミー』に入学。
※チェッカーの仕事をしながら、翻訳会社の登録採用テストを受け、フリーのお仕事をいただくように。

◆2013年現在、フリーの翻訳家として活躍中!

 

お仕事&学習スケジュールを公開

◎翻訳チェッカーの仕事をしながら、毎週提出する学校の課題をクリアするスケジュール

・毎週出る課題は5日間で完了させる

1日座りっぱなしで、8~10時間作業をしたとして、5日間で40〜50時間。その内の30時間を課題に、残りの時間を仕事にあてるイメージで作業を進めていました。

 

・課題を提出した日と、次の授業までの中1日がオフ

オフの日は大好きなゴルフなど。今はゴルフの知識を活かして、ゴルフ番組などの翻訳も手がけています。

 

◎5日間で、10分間の映像翻訳の課題をこなすスケジュール

◆課題の映像をみて、そこから何を調べなければいけないのかをピックアップして、調べるに1日〜2日くらい

・翻訳の仕事は、原文を間違ったまま訳さないように“情報の裏通り”をする必要があるので、調べものが多い。図書館やネットでリサーチするなどして、たくさんの時間をかけます。また、訳する分野によって専門知識が必要な場合も多いので、調べ物だけで1日が終わってしまう場合も。

◆字幕を作る前の、全文訳(一言一句もらさずにとりあえず全てきっちり訳すること)

・大体、10分間のドキュメンタリーを全文訳すのに丸1日ほどかかりました。 作品によって違いますが、ドキュメンタリーなどは、伝える情報が多くて、尚かつ信憑性が問われるので、特に調べものや全文訳に時間を割いていました。
・まずは一語一句もらさず訳さないと、間違った訳文を作ってしまうのが私の弱点でした。例えば、原文のニュアンスがぬけてしまっている、全然違う意味に訳してしまった……。なんてこともあったので、全文訳を丁寧にやることを大切にしました。 ※ここまでで2〜3日くらい

◆残り2〜3日で字幕を作成

・一度字幕を作成した後に、何度も見直しをしました。見直しをすればするほど、「ここは違うんじゃないか、もっといい字幕があるんじゃないか……」など気がつく部分がたくさん。確認しだすとキリがないほど!
・字幕には、1画面にだす字数の制限があるので、全部の情報をだせるわけではないんです。なので、全ての言葉を訳してそのまま反映するだけではなく、必要な情報を“取捨選択”する作業も必要です。

 

翻訳家になるために、必要なこと


『好奇心・得意分野をもつ』
スポーツや料理など、好きな分野を極めると、その知識を活かせる翻訳の仕事を任されることも!

『分からないことを放置しないでとことん調べる“リサーチ力”を鍛える』
とにかく、英語を適当に訳さないこと! 英語が好きな人は英文をサラッと読めてしまう分、サラッと訳したりしがちですが、そうすると、原文と意味が全然違っていた……、なんてことも。
原文を書いた人や番組を作った人の想いをくみ取る努力が必要です!

 『忍耐力、体力を鍛える』
翻訳は地道な作業です。途中で投げ出さず、納得いくまで作業をする精神力・体力が必要。

 

 

翻訳家になるための勉強法

・翻訳は文法が分かってないと訳せないので、英語を基礎から徹底的に学ぶこと

 

・映像翻訳には「字幕は1秒間に4文字」など独自のルールがたくさんあるので、専門学校に通った方が確実だし、知識をつかむのが早い!

 

・実務で学ぶことは本当に多い。なので、未経験から始められる実務に挑戦してみてもいいと思います。

 

いかがでしたか。翻訳には、高い英語力が必要なのはもちろん、膨大な情報を調べるリサーチ力、スケジュール管理能力もかかせませんね。長瀬さんの現在に至るまでの足跡を参考に、映像翻訳家を目指してみては?

 

■取材協力:日本映像翻訳アカデミー http://www.jvtacademy.com


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