教育の心臓部、文部科学省を直撃!
職員が語る「英語教育とグローバル人材」

315

取材・文/甲斐真理愛(編集部)

 

グローバル化の波がおしよせ、多くの日本国民にとって英語力が必須スキルとなりつつある今。しかし、諸外国に比べて「英語力が劣る」といわれる現状があり、国が抱える大きな課題として“英語教育の強化、国民の英語力の底上げ”があります。 そこで今回は、日本の教育の心臓部、文部科学省を直撃! 英語教育に関心を寄せる職員の方々に、自身が英語力を身につけた理由や学習法。また、英語教育の重要性やグローバル人材として活躍するために必要な能力。そんな人材を育てる政策などについてお伺いしました。

 

お話を伺ったのは、この3名!

 

大根田頼尚(おおねだ・よりひさ)さん
初等中等教育局。教員の任免や服務、教員評価などを担当。

山川喜葉(やまかわ・よしは)さん
初等中等教育局。グローバルリーダーの育成を目指す、先進的な高校への支援などを担当。

河村麻美(かわむら・あさみ)さん
研究振興局。ナノテクノロジー、材料科学技術に係る研究支援などを担当。

 

――英語教育に関心を寄せる皆さん。さっそくですが、ご自身が英語を勉強しようと思ったきっかけを教えてください。

 

大根田さん 私は社会人になってから、イギリスの大学院に留学するために勉強しました。留学前はIELTS(出願要件の一つ)対策を意識した勉強をして、それなりに英語力がついたつもりだったのですが……。いざ大学院で何万字という論文を書くとなった時に、“長い文章を論理的に英語で書く”という能力が足りないと痛感して。そういった能力を身につけるには試験勉強だけでは十分ではなかったわけです。それからは、自分が学ぶ分野に近い英語の論文をたくさん読んで、そのフォーマットを参考にしながら論理的な文章の書き方について学んでいきました。

 

山川さん 私は来年の夏にアメリカの大学院に留学する予定なので、今まさに勉強中です。TOEFL®対策用の勉強もしていますが、それだけだとおもしろくないので、Podcastで『TED』や『ESL』などの無料配信の英語コンテンツを聴き流したりもしています。

 

河村さん 私は学生の頃に英語を勉強しました。もともと完全に理系で高専(専門的な技術を学ぶ工業高等専門学校)に行っていたのですが、周りから「高専生は英語ができない」ってよく聞いていて。それが悔しくて、英語を勉強しようと。それで、高専3年生の時に、初めての海外旅行でニュージーランドに行ったんです。そこで、日本人とは違う文化や考え方をもつ人たちと交流して、「こんな世界が本当にあるんだ、世界は広いんだ!」って、素直に感動しました。それからは海外の文化にも興味がわいて、高専の留学生と積極的に話すようになりましたし、英語のプレゼン大会にも参加するなどしました。その過程で英語力が高まった気がします。

 

――みなさん、お仕事で英語を使う機会はありますか?

 

大根田さん 部署によるとは思いますが、私の部署は国内の教育委員会とやり取りすることが多いので、英語を使う機会はほぼありません。ただ今後は英語で業務を行う場面もあるだろうと思っています。

 

山川さん 私の部署は、小中高の英語教育や高校生留学を担当しています。ただ、どれも国内向けの政策が多く、業務で英語を使う機会はなかなかありません。それが最近少し変わりつつあります。というのも、これまでは主に、“世界で活躍するグローバルリーダー”を育てる政策は大学生をターゲットに行われていたのですが、それを高校生段階から一貫して取り組もうという動きに変わってきました。例えば、海外から「日本のあの高校出身なんだ。すごいね!」と言われるくらいの、尖った高校を作ろうしています。その政策を進める上で、今後は英語を使う機会も増えていくと思います。

 

河村さん 私は科学技術の畑にいて、大学の研究者の方と関わることが多く英語を使う機会もあります。また、研究者に限っていえば英語力は大前提になっています。国際学会の発表は英語ですし、国際共著論文も英語で書くのが当たり前の時代になりつつありますから。例えば、この間ブリュッセルで国際会議があったんですけど、日本のある機関の研究者が、会議で出会ったアメリカの研究機関の方と共同研究をはじめたり。それも英語力があるからこそ掴めたチャンスですよね。やっぱりこれからの時代、英語力を前提としたコミュニケーション能力+アクションを起こす力がないと、世界と闘っていけないのかなと感じました。

 

――英語力にどんな能力をプラスできるかが、大事ってことですね。

 

大根田さん 私がイギリスに2年いて感じたのは、英語力だけじゃダメだということです。ディスカッションの場で自分の意見を臆せずに言う積極性も必要ですし。また、これはつくづく思ったのですが、海外では真面目な話をしていても結構ジョークをはさむんですよ。そんなコミュニケーション能力も必要かと。

 

河村さん 確かに国際会議とかでも、海外の方ってぽろっとおもしろいことを言います。1回笑いをとらないと、気が済まないってところがありますよね。

 

大根田さん そうそう!ジョークも含めてコミュニケーションだと感じます。それが場を和ませるのと同時に「あなたと会話するつもりだよ」という意思表示になるのでしょうね。ですから、単に英語力や論理力だけではないトータルのコミュニケーション能力を備えることが重要だと思うんです。どこでも誰とでも臆せずにコミュニケーションがとれる。それがグローバルに働ける能力のひとつではないかと思います。

 

山川さん 私も、ビビらないことがとても大事だと思います。言葉が通じない環境は誰にとっても怖いと感じるでしょうが、英語をコミュニケーションの道具だと割り切って、文法を間違ったとしても、黙っているよりとにかく“伝えようとする姿勢”を見せることが大切だと思います。加えて、日本人としてのアイデンティティをもつことも大切ですね。いくら英語を流暢に話せても、外国人に「あなたの国について教えて」と聞かれて詰まっていては、グローバル人材とはいえないと思います。

 

河村さん 確かに、海外に行ったときに「日本はこんな文化があって、こんな歴史的背景があります」と、話せる人はいなかったです。英語がペラペラな人はたくさんいたのですが、それだけじゃダメだと感じました。例えば、ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中教授の英語のプレゼンは、そんなにネイティブな感じではなかったと思いますが、物ごとの芯をついた分かりやすい内容で、教授のアイデンティティも感じる素晴らしい内容でした。そんな“英語能力だけで乗り切ろうとしない、中身のあることを話せる人”が、これからの時代に必要だと思います。

 

――では、そんなグローバルリーダーとなる人材をどう育成していこうと考えていますか?

 

山川さん 私のいるチームでたどりついた解のひとつは、何かを生み出したり発見したりする能力を育てるということです。日本人は与えられた課題を考えて解くのは得意だけれど、何もないところから課題を探すのは不得意だといわれています。例えば、自分の住む地域や諸外国の環境問題に人々がどう取り組んできたのかを調べて、国内外の大学と連携しながら、企業や関係団体を対象に海外も含めて実地調査をする。そして最終的には自分たちの見つけた解を実現するために、起業や、NPO法人設立を実行する。そんな問題発見能力と課題解決能力、実行力を育てたいと考えています。

 

大根田さん 私は仕事で、校長先生や教頭先生が学校という組織の中でどうやってリーダーシップを発揮していけばいいのかを考えているのですが、そのリーダー像はグローバルリーダー像を考える上でひとつの参考になると思います。問題があった時に組織で対応し解決していく。全体のパフォーマンスを上げていく。そういった能力がリーダーに求められるのではないかと。

また、海外に出て感じたのは、議論をリードする人がすごく意見を拾うということです。この意見は関係ないんじゃないかと思われる意見ですら、非常によく拾う。そしてよく褒めるんです。さっき「臆しないで言う」という意見がありましたけど、どんどん意見を拾ってもらえたら臆しないですし、「もっと言おう!」とやる気になりますよね。グローバルリーダーには、人をやる気にさせて動かしていく。そういう能力も必要ではないかと感じました。

 

――確かに褒められたらやる気がでます!

 

山川さん ですよね。特に私が高校生くらいの世代を見て思うのは、全ての原点は“モチベーション”なのではないかということです。例えば、大学生の英語ディベート大会で優勝したチームや優秀だったチームに、「英語をどうやって勉強しましたか?」と聞いたら、「なんとか英語を話せるようになりたいから自主的に勉強しました」という人がほとんどで。やっぱり必要性を感じてやる気になるからこそ、上達するんですね。そうやって、自分で考えた勉強法で自立した学習者として学んでいくことが、なりたい姿になる一番の近道だと思います。

 

大根田さん 自立した学習者になるということは本当に大事なことだと思います。大学教育を修了する22歳からは学校教育の外で学んでいくことなりますし、人生はそこからの方が長いわけですから。卒業してからも自主的に学び、常に能力を伸ばしていこうと考える人を学校教育が終わるまでに育てていく。そういうモチベーションを持った人が育っていくために、文科省が担う役割は大きいと思っています。

 

また、「英語力は急に上がらないので、きたるチャンスを逃さないためにも、早めに勉強していくことをおすすめします」と、大根田さん。
英語が出来ればチャンスも可能性も広がりそうですね。みなさんも自分のモチベーションが上がる目標を見つけるなどして、自主的な英語学習に力を入れてください!


おすすめ記事