教育と英語に精通する乙武洋匡氏(前編)
「英語を学んで色んな国の人と話したい」

〜英語を学んだ先輩からのメッセージ〜Vol.08

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現在、東京都の教育委員を務める乙武洋匡さんは、大学在学中、英語のスピーチコンテストで優勝。絵本『かっくん』(講談社)の翻訳を担当するなど、英語が得意なことでも知られています。そんな乙武さんに、英語を学んだきっかけや学習法、教育の現場を知る立場だからこそ見えてきた、英語教育の重要性などについて伺ったことを前後編に渡ってご紹介します。前編では、ご自身の英語学習について語っていただきました。

 

――高い英語力をもつ乙武さん。英語を学ぼうと思ったきっかけは?

 

海外で「現地の人ともっと話したい、仲良くなりたい」と思ったことがきっかけです。僕は、海外旅行がすごく好きで、仕事やプライベートで今まで30ヵ国くらい行きました。どの国でも英語でコミュニケーションをする機会が多いですし、やはり旅と英語はセットだなと実感しています。

 

僕、今「英語が堪能」と言っていただいたんですけど、実はそんなことないんですよ。ただ唯一、発音は褒められることが多くて、そのせいで困ることがあるんです。例えば、海外のレストランで、英語で注文すると、僕の発音を聞いた相手が「この人、英語を話せる」と判断してバーッと英語で話しかけてくるんです。でも僕は(いやいや、そんな勢いで話されても聞き取れないよ)と焦って「分からないです」と英語で言うと、その「分からないです」の発音もまぁまぁキレイに聞こえるみたいで。また「なんだお前、話せるじゃないか!」となってバーッと話されちゃう(笑)。海外に行く度にそんな経験をするので、「これは英語を話せるようにならないとダメだ」と思いました。それがきっかけです。

 

あとは僕、けっこう見栄っ張りなところがあるので、見栄で英語を勉強している部分はあります。“虚栄心”“見栄”ってプラスの意味で使われないことが多いですけど、僕の場合は虚栄心と見栄が自分を育ててくれた部分が大きいと思っています。人に良く見られたい、恥ずかしい思いはしたくない……、だから頑張る!という。例えば今みたいに「乙武さん、結構英語ができるんでしょ?」と言われた時に「いやいや、そんなことはないですよ」と言っても「またまた、謙遜して」となるじゃないですか。そんな感じで、勝手に評価が上がる苦しさと、皆さんがイメージしてくれている程度には英語が出来ていないと!という虚栄心をもっているんです。

今も英語の先生に自宅まで来ていただいて1、2週間に1回くらいレッスンを受けています。やっぱり勉強しないと忘れてしまうので。

 

—―確かに「そんなに英語が堪能じゃない」と聞いて意外でした。だって、大学時代に、ESS(英語のサークル)のスピーチコンテストで優勝されたんですよね?

 

そうなんですよ。そういうエピソードがあるから「乙武さん英語が得意なんだね!」ってなっちゃんです(笑)。僕、原稿に書かれている内容を偉そうにしゃべるのは多分得意なんですけど、でも英語のやり取りとなるとまた違うじゃないですか。

大学受験はしているので、文法の基礎まではちゃんと覚えているんですけど、海外に行って生きた英語に触れると「テキストで習った英語はなんだったんだろう、英会話には使えないな」と思うことが結構あるんです。
例えばこの前、英語の先生に聞いてびっくりしたのが、「Good bye は今生の別れじゃないけど、しばらく会わないみたいなニュアンスの言葉だから、友達と別れる時なんかに気軽に使わないほうがいいよ」と言われたんですね。それを聞いて「えぇ!? そんなこと教科書には載ってなかったじゃん!」と。そんな、言葉のニュアンスの違いにびっくりすることはたくさんありますね。他にも「元気ですか?」と聞くのは「How are you?」だと散々学校では習いましたけど、海外で使うのは「How's it going」と「How are you?」が半々くらいなんですって。だから、なんで学校では「How's it going」を教えてくれなかったのかなと思います。

 

――では、生きた英語を身につけるために効果的な学習法ってなんだと思いますか?

 

英語が話せないなりにもう、海外に行っちゃう!っていうのも手かなと思いますね。それで大変な目にはあうかもしれませんが、海外に行くと楽しさや刺激も絶対にあるので。あの経験をまた味わいたいとか。そこで出会う人たちともっとコミュニケーションをはかりたかったなぁという欲もわいてくると思うので。
実は母が最近、60代にして海外旅行にバンバン行くようになって。それで今、すごく真剣に英語を勉強しているんです。もっと旅行先で英語を話せたらいいな、地元の人とコミュニケーションとれたらいいな。という思いから勉強するようになったらしくて。毎朝、6時から7時くらいまでずっと英会話のラジオを録音して聴いたりしていますよ。  続きを読む


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