乙武洋匡氏(後編-2)「英会話力と、
様々な価値観を認められる柔軟性が大切」

 

 ――社会人になって発音で苦戦している人、多いですよね。では、大学や社会人の英語教育についてはどう思いますか?

 

意識の高い人と低い人の差がどんどん開いてくるのが、大学から社会人という時期だと思います。高校までは英語学習を強制的にやらされますが、大学になると授業もサボれてしまうし、大学に行かない方もいるし。で、社会に出たら英語とバイバイという人が多いので、そこから目標を高くもって英語を勉強しなきゃという人と、そうでない人に差がどんどんひらいてきてしまうのかなぁと思います。
しかも、社会人が英語を学ぼうとすると、英会話教室に行くことが一般的だと思うのですが、当然、お金がかかってくるわけで。そうすると経済格差が英語教育にも顕著に出てきてしまいます。だからこそ、お金の有無ではなく義務教育でレベルの高い語学力が身につくようになるのが理想ですけどね。

 現時点でも、レベルの高い英語学習をしている地域はあります。この前、僕が取材した埼玉県深谷市の学校では、文科省に先駆けて小学校5年生から英語の教育をスタートさせる試みを初めてもう5年間くらい経つんですけど。そこの先生たちに「英語を学ぶことで、子供たちになにか変化はありましたか?」と聞いたら、自分の意見をみんなの前で言わない、個性を隠してしまう消極的な子供たちが、英語を学ぶことで「もっと、自分をだしてもいいんだ!」思ってくれるようになったと言うんです。それは僕の中にすごく大きな示唆をいただける事象で、英語を学ぶことにはそんなメリットもあるのだと考えさせられました。
英語を教える外国人の先生は感情表現が豊かで、日本人がこんな表現をしたら大げさに思われてしまうという表現もナチュラルにするので、子供たちがそういう先生を見て「もうちょっと感情をだしていいのかな」と感じるのかもしれませんね。
また、英語というツールを通じて主張することが当たり前の海外の文化というか、陽気な雰囲気やエッセンスを吸収しているのかもしれません。

特にびっくりしたのが、僕が休み時間に子供たちに「将来、海外に行ってみたい人」と挙手をもとめたら、ほとんど全員が手をあげて。
それってスゴイことですよね! 特にこれからはオリンピックの招致も決まって外国の方がたくさん日本にくるわけですから、子供たちの意識が海外に向いていけば、外国人と接するハードルも下がるのかなと思いますね。

 

――感情を豊かに表現したり自分の意見を主張するって、グローバル時代に必要な能力といえそうですね。

 

そんな能力は必要だと思います。英語力ももちろん必要ですけど、僕は“様々な価値観を認められる人”がグローバル人材だと思っています。日本ほど、常識とか慣例が物ごとの判断基準になってしまう国ってないと思うんですね。そんな国で育った僕たちが、いざ海外で仕事をしようとするとかなり使えないやつになってしまう可能性が高いんです。要は自分でどうすればいいか考えない。「普通こうだよね、今までこうだったよね」ということが判断基準になってしまっているんです。それだと「じゃあ、お前じゃなくていいじゃん」ということになってしまいますから。

だからグローバル人材とは、“自分の頭で考えて自分で判断することのできる人”だと思います。人の価値観を受け入れた上で自分はどう考えることができるのか、それを自己決定できる人でないとグローバルに活躍できないと思います。

海外に目を向けてみると、例えば、性的マイノリティの人や僕のような障害のある人がいっぱいいるわけで。そういうところに目を向けられる社会になった時に、それぞれの違いを認められる人材が育っていくのかなと思うんですね。特に海外は多民族国家がすごく多いですから、そういう人たちと仕事をしていくにはそれぞれに違いがある、相手は相手、それぞれが尊重すべき個性だと思えるようになることが大事です。そういう感覚を養うためにも、旅にでて色んな人と触れ合うといいと思いますよ。
僕は、自分の子供にも色んな国を旅して欲しいし、何なら海外の人と親戚になれたらもっといいなと思います。クリスマスとかニューイヤーとか、新しい家族の国の文化でお祝いできたら、すごく楽しいと思いませんか?

 

――グローバル時代を生きるためには、様々な国の文化を受け入れる柔軟性が大切と言えそうですね。教育と英語のコミュニケーションの楽しさを知る乙武さんの、今後のご活躍に期待しています!

 

■プロフィール
乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)
1976年4月6日生まれ。東京都出身。大学在学中、自身の経験をユーモラスに綴った『五体不満足』(講談社)が500万部を超す大ベストセラーに。1999年3月からの1年間、TBS系『ニュースの森』でサブキャスターを務める。大学卒業後は、「スポーツの素晴らしさを伝える仕事がしたい」との想いから、『Number』(文藝春秋)連載を皮切りに執筆活動を開始。スポーツライターとして、シドニー五輪やアテネ五輪、またサッカー日韓共催W杯など、数々の大会を現地で取材。翻訳絵本『かっくん』(講談社)を手がける。2005年4月からは、東京都新宿区教育委員会の非常勤職員『子どもの生き方パートナー』として教育活動をスタートさせる傍ら、明星大学の通信課程に学び、2007年2月に小学校教諭二種免許状を取得。同年4月から2010年3月まで杉並区立杉並第四小学校教諭として勤務。教員経験を活かし、東京都内に『まちの保育園』をオープン。現在は東京都の教育委員を務める。

●乙武洋匡オフィシャルサイト:http://ototake.com

 

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  撮影/長谷川梓 取材・文/甲斐真理愛(編集部)


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