外国語学習と外国暮らしが教えてくれるもの【07】

英語と漢文は意外に近い

漢文は難しいと感じている人が多いようですが、見かけほどではありません。特に、英語が得意な人は漢文を敬遠する必要などないでしょう。今日はその理由を書きたいと思います。

外国語の共通点

塾で国語の受験指導などしていると「漢文は苦手」と感じている生徒が思ったより多く、もったいないと思わずにいられませんでした。入学試験に漢文を出すのは大学でも少ないのですが、あれば得点源にすることができます。漢文の問題自体は古文や現代文と比べて、格段に易しいからです。ひっかけ問題や深く掘り下げた問題は出ません。それもやはり、苦手に感じている学生が多いからでしょう。

特に英語が得意な人は、漢文で点を稼がない手はありません。中国語の文の構造は日本語より英語と似通っています。

例えば、よく中学校で習う孟浩然の春暁。

春眠不覚暁

「不覚暁」は英語の語順そっくりですね。
not realize dawn

否定を表す言葉が動詞の前にあり、動詞の後に目的語が来ています。

日本語と中国語の語順は異なるので、私たちの先達は返点などを使って日本語のように読む工夫を編み出しました。それほど複雑なものではありません。英語の文法を覚えるよりずっと簡単です。

英語で難しい単語を見て怖気付いてしまうのも、漢文で難しい漢字を見て怖気付いてしまうのも本当にもったいないですね。

 

国を超えて共感を覚える言葉の力

先頃、日本青少年育成協会(東京都)がコロナウィルスで苦しむ武漢へマスク2万枚以上を送った際、段ボール箱に漢詩を貼ったところ大評判となりました。その時の漢詩はこちら。

山川異域 風月同天

場所は変わっても大自然の営みは変わらないという意味だとか。

それに返答するように、ジャック・マー氏が日本にマスクを送る際、漢詩を添えたことも大きな話題となりましたね。

非常時に詩が人の心を明るめ、人と人とを繋いだというわけです。通訳や翻訳なしで、日本人と中国人が共に理解できる漢詩ならではの出来事でした。

 

気持ちが与える言語習得への影響

ところで、塾で教えていて驚いたのは、小学校高学年で子どもに論語を読ませていることです。子どもたちを早くから古典に馴染ませたいという趣旨は分かりますが、もっと彼らの生活実感に近いものを教材として取り上げた方が効果的でしょう。漢文嫌いや古典アレルギーを増やしてしまっては残念です。徒然草や百人一首を暗唱させたりもしているようですが、もったいないですね。何パーセントの小学生がその内容に感動しているでしょうか。小学校中学年では、子どもの完成に訴える小林一茶の俳句やことわざも導入はしているようです。しかし、高学年の受験レベルの子どもたちにも、定着しているとは言えません。

徒然草が暗唱できるのに、よく使われることわざも知らない子どもを見ると首を傾げてしまいます。ことわざの中にも古典文法はいっぱい潜んでいます。

「急がば回れ」の「急がば」(現代文では急げば)

「青は藍より出でて藍より青し」の「青し」(現代文では青い)

リズムよくことわざや俳句を口ずさんで古典っておもしろいな、と思ってもらい、暗唱だけではなく内容も理解する。そうすれば古典学習の基礎が築けるでしょう。

 

最後に、漢文と英語と言えば、夏目漱石のことも思い出されます。英語の先生であった彼は、漢詩も英語の詩も残しています。単なる教養としてではなく、漢文を愛していたのですね。

 

ライタープロフィール●外国語人
外国語としての英語、フランス語、日本語を学生や社会人に教えつつ、通訳・翻訳の経験を積む。新TOEICのスコアは985点。この世界の様々な地域で日常の中に潜む大小の文化の違いが面白くて仕方がない。子育て中。

 

 

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