外国語学習と外国暮らしが教えてくれるもの【09】

日本語で読解力がある人は英語でもある

2019年12月に公表された国際学習到達度調査(PISA)で、日本の高校生の読解力低下が話題となりました。原因はいろいろ考えられるでしょう。一部の意見として、外国語学習が偏重され、母語の学習が疎かになっているという主張もあるようです。果たして外国語が上達すると母語の読解力は落ちるのでしょうか。

PISAの調査結果

2019年の調査では、OECD(経済開発協力機構)加盟36ヵ国を含む全79ヵ国・地域中15位。確かに半分よりは上です()。しかし、問題は下がり続けているということ。最下位から15位に上がったのなら躍進ですが、その反対です。2012年では過去最高の4位、2015年では8位、そして今回は15位です。次はどうなるのでしょう。

 

2015年

 

2012年

引用:国立教育政策研究所

 

この結果は、私が日々生徒さんと接していて感じることと一致しています。また、さまざまな世代の人と仕事をする企業の幹部さんからも、同じような感想を聞くことがあります。

ところで、読解力とは何を指すのでしょうか。

読解力とはひとつひとつの単語の意味を知っていることではありませんよね。単語と単語の関係、文と文の関係、段落と段落の関係を捉えられることが読解力の重要な柱です。文脈力と言い換えてもいいでしょう。文脈を掴むことによって、知らない単語の意味も想像がつきます。多くの意味を持った単語が、その文脈の中ではどういう意味やニュアンスで使われているのかも理解することができます。これはTOEIC®part7の多義語問題とドンピシャリですね。

 

読解力は何のためにあるのか

読解力の低下がどうしてこれほど問題になるのかといえば、文字を読む時にだけ使うものではないからでしょう。人の話を理解する時にも使います。なぜ今この話をしているのか。相手が言いたいのは結局どういうことなのか。意図を読む。

社会の動きを読む時にも使います。前はこうだった、そして今はこうだ、だからおそらくこうなるだろう。または、その方法はあの背景ではうまく行ったが、今度は背景が違うから別の方法が必要だ、など。

つまり、読解力は理解力や思考力と密接に結びついています。

 

英語の長文問題

単語の意味が分かるだけでは文章は読めないと他の記事でも書きました。英語の長文読解ができないとしたら、その理由は英語以外のところにあるのかも知れません。実は、外国語で長文が読める人は、必ず母語でも本や雑誌を読んでいます。英語の長文読解ができるようになるためには、母語でもいいので文章を読み、文脈を捉える練習をすることが必要です。

一度身についた読解力は、日本語から英語、英語から日本語と言葉が変わっても応用できます。

 

日本語の読解は得意だが英語の読解は苦手、という人もいるかもしれませんね。その場合は、ふつうに英語の文法や語彙を学習すれば、英語の読解力も比較的速く上がるでしょう。日本語とは違う英文の構造を理解すること、また、知らない単語があっても気にしないで読み続けることが大切です。文法や語彙は、読解力に比べれば短期間で身につけることができます。

読解力は短期間で身につけられるものではありません。すでに成人してしまってから身につけようとすれば、少なくとも半年はかかるでしょう。社会人の間では速読法などもはやっているようですが、普通の速度でできないことを、速くやろうとするのは無理があります。速読を学ぶのは、読解力をつけてからでも遅くはないと思いませんか?

 

ライタープロフィール●外国語人
外国語としての英語、フランス語、日本語を学生や社会人に教えつつ、通訳・翻訳の経験を積む。新TOEICのスコアは985点。この世界の様々な地域で日常の中に潜む大小の文化の違いが面白くて仕方がない。子育て中。

 

 

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