外国語学習と外国暮らしが教えてくれるもの【34】

大人が外国語をマスターするために必要な考え方とは

外国語を習うのは子どものうちがいいとよく言われます。確かに幼い子どもはあっという間に言葉を覚えてしまいます。しかし、大人になってから外国語を始め、使いこなせるようになる人もいます。外国語をマスターできる人とできない人、どこが違うのでしょうか。

母語を観察しているかどうか

日本にいながらにして外国語を楽々と身に付ける人は、母語を客観的に見ている場合が多いです。
普段意識しないで使っている母語を、客観的に見るとはどういうことでしょうか。次の例文を見てください。

1 ネズミは猫に食べられた。
2 私は妹にクッキーを食べられた。

同じ「○○は△△に食べられた」ですが、その言葉が表す事実は全く異なっています。

1では猫はネズミを食べたのですが、2では妹は私を食べてはいません。妹が食べたのはクッキーです。2の現実を端的に表せば、次のように言い直すことができます。

2’  妹は私のクッキーを食べた。

または

2’’ 私のクッキーは妹によって食べられた。

これを見ると、言葉と現実にはズレがあることがわかります。

なぜ1と2の例文がどちらも受動態になっているかを考えてみれば、「ネズミ」も「私」も他者の行為の結果を被っているからでしょう。どちらも、被害の受け手ではあります。

 

英語の態や分詞がなぜ難しいのか

言葉と現実にはズレがある、ということは、言語が異なればズレ方もまた異なるということです。つまり、同じ現実を表すにも違った言い方をします。日本語では受動態で言っていることを英語では能動態で表す場合もあり、逆もあります。母語の段階で現実と言葉のズレに気づいている人は、「なるほど、英語ではこう言うのか」と適応できますが、気づいていない人は「どうして?」と混乱してしまいます。

なぜ「受動態」の話をするかというと、英語の受動態や分詞で躓く人が意外に多いからです。

受動態は中学英語で習います。be動詞+過去分詞で受動態を作ることはできますが、それが出来たからといって、英語の受動態が分かったことにはなりません。

次のような場合は分かりやすいですね。

<能動態>
Conan Doyle wrote Sherlock Holmes.
コナン・ドイルがシャーロック・ホームズを書いた。

<受動態>
Sherlock Holmes was written by Conan Doyle.
シャーロック・ホームズはコナン・ドイルによって書かれた。 

では、次はどうでしょうか。
「学生は混乱している。」と言いたいとします。(   )の中に入るのは、現在分詞confusingでしょうか、それとも過去分詞confusedでしょうか。

The student is (    ).

答えはconfused

直訳すれば、「学生は混乱させられている」となります。だからといって、他の人に混乱させられているとは限りません。しかし何かしら原因はあるはずで、その原因(もしかするとそれは英文法かもしれません)が学生を混乱させている、つまり学生は混乱させられていると捉えます。

それというのも、英語のconfuseは他動詞で「~を混乱させる」という意味だからです。日本語の「~ている」に引っ張られて-ingを選ばないよう注意しましょう。

English grammar is confusing.
(英文法は人を混乱させる=英文法はややこしい)

The student is confused.
(学生は混乱させられている=学生は混乱している)

もちろん、客観的に見て、英文法は日本語や他の言語と比べてややこしいわけではありません。

 

ライタープロフィール●外国語人

英語、フランス語、外国語としての日本語を教えつつ、語学力に留まらない読む力、書く力を養成することが必要であると痛感。ヨーロッパで15年以上暮らし、とりあえず帰国。この世界の様々な地域で日常の中に潜む文化の違いが面白くて仕方がない。子育て、犬育て中。TOEIC®985点
https://www.znd-language.com

 

 

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