「恐れず飛び込んでいく度胸があれば
英語はいつでも習得できる」

三越伊勢丹人事部 下福直子さん

多くの日本企業が、グローバル化への対応を迫られている。特に、企業の成長のカギを握る「人材」の育成において、英語力の向上は避けて通れない課題だ。では、ビジネスの現場において英語力はどの程度求められ、どのように使われているのだろうか。今回、幼少期をオーストラリアで過ごし、大学卒業後、伊勢丹に入社、ニューヨーク駐在からバイヤーを経験し、現在は人事部で採用、キャリアパス、人材育成を担当する下福直子さんにその実情を伺った。

 

――下福さんの現在の職種に至るまでの経歴を教えて下さい。

 

新卒採用での入社後、販売員、アシスタントバイヤーを経て、ニューヨークの駐在事務所に配属となりました。ニューヨークには4年間駐在し、東京で売る商材探しが主な業務でした。帰国後、当時新宿店の地下2階にあったBPQCの立上げメンバーとしてプロジェクトに参加し、自主製作の衣料品の企画生産を担当しました。その後、ファッションに特化した『IFIビジネススクール』に派遣され、店舗に戻ってからは、海外のブランドの中でも特に高額商品を扱う婦人服特選部のバイヤーを経て、人事の業務に就くこととなりました。

 

――そんなご自身のキャリアの中で、英語力を求められる業務は何だったのでしょうか。

 

必死に英語を学習したのは、ニューヨーク駐在時です。私は、3歳までと10歳~14歳までオーストラリアにいたので、日常会話レベルの英語力は自負していたのですが、実際にニューヨークに行ってみると、何を言っているのか全く聞取れませんでした。というのも、オーストラリアの英語はイギリス系なので、アメリカと発音が全然違うんです。「これはマズイところに来てしまった……」と思いましたね。電話をとっても何を言っているのか分からないですし。ただ、こちらの言っていることは通じました、一歩通行でしたが。

 

――具体的には、どのように学習したのですか?

 

テレビのニュース番組と新聞を活用しましたね。メルボルンにいた時に、海外転勤の多い人たちから教えてもらった方法なのですが、その国の言葉を理解するための近道は耳を慣らすことで、なかでもキレイな言葉と標準語を習得するにはニュース番組が最適なのだそうです。普段テレビをつける習慣はないのですが、その頃はとにかくニュース番組だけ流していました。それにプラスして、新聞を毎日3~4誌、必死になって読んでいましたね。聞くのはテレビ、読むのは新聞、それを半年くらい続けました。

 

――実際の業務では、いわゆるビジネス英語も求められましたか?

 

いえ、ほとんど使いませんでした。ファッション業界なので、良くも悪くも、堅苦しくないんです。営業担当者とのやりとりは話し言葉で事足りますし、簡単な輸出入の知識があればなんとかなります。知らない業務をするわけではないので、言葉だけの問題であれば通じることも多いですし、数ヵ月の間に学んでキャッチアップできるものだと思います。それよりも、米国に本社を置く大手企業とのトップ会談での通訳やレターなど書面でのやりとりなどで使う英語に苦労しました。日本語と同じような形の‘敬語‘がなくてもそれらしき表現はあるので。大袈裟かもしれませんが、会社の格が下がるようなことはしたくなかったので、そこは気を遣いましたね。

 

――日本への帰国後、英語を使う機会はありましたか?

 

バイヤー時代に扱っていた商材は輸入物オンリーだったのですが、通訳なしで買い付けをしていました。通常バイヤーには通訳がつくのですが、必要ないだろうと言われまして(笑)。通訳を介さないと交渉事に直談判できるので、相手の感情的なところまで踏み込めるのは大きなメリットだと思います。

 

あとは、百貨店ですと意外にも英語を使うのは店頭だったりします。海外からのお客様も相当数いらっしゃいますので。実際にお客様の対応をしていて感じるのは、ずば抜けて英語のできるスタッフが少数いるよりも、スタッフ全員が日常会話程度の英語力をもっていたほうが、お客様からの評価は高いのではないかということです。例えば、50人にひとり高い英語力があっても、別のお客様を対応していたらお待ちいただかなければなりませんし、別フロアから呼び出すまでに時間がかかってしまったりもしますよね。それよりも、そこにいる誰かに声をかければ、誰にでも助けてもらえる、そんな環境が理想だと思います。

 

――では最後に、今後、三越伊勢丹社員に求められる英語力についてお聞かせ下さい

 

私は現在、大卒の採用担当もしておりますが、卒業時点で英語がどれだけできるかよりも、学ぶ意欲のあることが大切だと考えています。これは、新入社員に限ったことではありません。すぐに英語を覚えられる人と、何年経っても英語ができない人、その違いは何かといいますと、恐れず飛び込んでいく度胸があるかどうかだと思います。相手に通じないからといって黙り込んでしまっては、そこから前には進めません。間違えてもネガティブに捉えない、恐れずに前を向いていれば、いつでも学べると思うんです。

 

とはいえ、できるに越したことはありません。ゼロから始めなければいけない状況と、ある程度できる状況では、できる人はできていない人が英語に割く時間を他の事に費やせるわけですから、それは大きいと思います。

 

取材・文/齋藤悦子(編集部)


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