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医療翻訳者 井上清佳さん

 自身のキャリアに英語力をプラス。夢を叶えた先輩たち

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構成・文/松本考史

 

「英語を使う仕事がしたい!」「英語力を活かすにはどんな仕事があるの?」

そんな想いを抱いている読者も多いのではないでしょうか。そこでCheer up! Englishでは、英語力を身につけキャリアチェンジ、キャリアアップという夢を叶えた先輩にインタビュー。転職や昇進などのプロセスとともに、ビジネスで通用する英語力のレベルなど、実体験に基づいたリアルな成功事例として紹介します。今回は、看護師からイギリスへの留学を経て、医療翻訳者へとキャリアチェンジを遂げ、第一線で活躍する井上清佳(いのうえ さやか)さんにお話を伺いました。

 

――看護学校卒業後、地元広島の病院で看護師となった井上さん。英語を学ぼうと思ったきっかけは?

 

小児科に勤務していたのですが、そこにスリランカのお子さんが入院していたんです。ご両親はほとんど日本語を話せないので、英語しかコミュニケーションを取るすべがありませんでした。でも当時の私は全く英語が話せなくて。

お子さんが今どんな状態で、どういった薬を使うのかなど、詳しく説明して、なるべく不安を取り除いてあげたいのにできない。そんなもどかしさから、英会話スクールへ通うことにしました。

 

――その英会話スクールで留学を勧められたそうですね。

 

はい。日常会話さえ、ままならなかったのでクラスは初級だったのですが、週2日1時間のレッスンを続けていくうちに、もっと英会話力をつけたい!と意欲が湧いてきて……。スクールに相談したところ、「本格的に英語を話せるようになりたいなら、留学するべきですよ」とアドバイスをいただいて、即決しました。

 

――即決とはなんと思い切りの良い!仕事を辞めることや、帰国後の再就職に不安はなかったのですか?

 

これは私の職業だからこその部分が大きいのですが、看護師不足の病院は多いので帰国後もなんとかなるだろうと(笑)。それと、ほとんどの看護師は3年以上勤務すると新人を指導する立場になり、退職しにくくなるんですね。だから、4年目を迎える当時が、社会人留学する最後のチャンスだと思ったんです。

 

――なるほど、看護師資格を持っていることが、留学後の生活の不安を払拭する強みだったんですね。ところで留学先の国や期間はどのように決めたのですか?

 

これも英会話スクールで「ネイティブイングリッシュを学ぶなら断然イギリスが良い」と、『EF(Education First)ケンブリッジ校』への留学を勧められて。期間は、3ヶ月・半年・9ヶ月と3つのコースがありましたが、退職してまで英語を学ぶわけですから、最長の9ヶ月コースを選びました。費用も150万円程度とその頃の私がなんとか捻出できる範囲でしたし。

 

――そしていよいよ留学生活がスタート。語学学校での授業はいかがでしたか?

 

文法やディスカッションなどを中心にした授業でしたが、最初は全然ついていけませんでした。まず、リスニングでつまずきましたね。聴き取れないから質問されても答えられない、言いたいことも言えない。そんなジレンマを抱える日々が続きました。

 

――そんな井上さんのリスニング力をアップさせたのは、何だったんですか?

 

毎日授業の最初に行われたディクテーションと、ホームステイ先でのコミュニケーションですね。ディクテーションは、講師が読み上げる英語の文章を聴いて書き取ることなんですが、耳をそばだてないとどんどん先に進んでいってしまう。とにかく講師の言葉を聴き逃さないよう必死でした。

また、ホームステイ先ではホストファミリーが容赦なくネイティブのスピードで話しかけてきます。当然、はじめは思うようにコミュニケーションが取れませんでした。それでもめげることなく、毎日ホストファミリーとの会話に挑んでいましたね。おかげでずいぶん鍛えられました。

 

――まさに毎日がネイティブイングリッシュの1000本ノック! 成果はどうでした?

 

留学3ヶ月後には、ほとんどの英語を聴き取れるようになりました。リスニング力が上がると相手の問いに答える意欲が湧くので、スピーキング力も自然にアップして、語彙も増えましたね。リーディングとライティングのスキルもこの頃から伸びていったと思います。それと、留学終了直前に受験したケンブリッジ英検で、FCE(First Certificate in English )レベル*に合格できたことも大きな成果でした。

 

*英検準1級・IELTS:5.5・TOEIC®:800~900・TOEFL®iBT:80〜100相当(編集部調べ)

 

――9ヶ月間の留学を終え帰国した井上さん。再就職に向けて、まず何から始めましたか?

 

帰国後は時間に少し余裕があったので、リスニング力が落ちないうちにTOEIC®を受験しました。日本で再就職をするにあたって、英語力をアピールするにはケンブリッジ英検だけではなく、TOEIC®スコアも必要だと思ったからです。当時のスコアは910点でした。

 

――TOEIC®を受験後、再び看護師として就職。そして医療翻訳者を目指すことにしたのはなぜでしょう?

 

英語力を活かし、看護師としてより多くの外国人患者様の役に立ちたいという想いから、国立国際医療センターへ就職したのですが、実際あまり英語圏の方は来院なさらなくて……。日増しに英語を活かす環境は病院以外にあるのではないかと考えるようになりました。そんな時に立ち寄った本屋で「医学・薬学の翻訳・通訳」という雑誌に出会い、初めて医療翻訳という職種を知って、病院を退職しその道を目指すことにしたんです。

 

――看護師から医療翻訳者へキャリアチェンジするために、どのようなステップを踏んだのでしょうか?

 

まず大手人材派遣会社に登録しました。その際には、自身のTOEIC®スコアと看護師資格を保有していることをアピールしましたね。その甲斐あって、大手製薬メーカーの翻訳部署への派遣社員として採用されました。業務内容は医薬品に関するレポートの英訳でした。

 

――医療翻訳者としてのキャリアスタートは、派遣社員だったんですね。その後、正社員として医療翻訳者になったのはどういった経緯からですか?

 

きっかけは、派遣先の製薬会社に出向していた医療翻訳会社の方が、休日に有志4、5人を集めて行ってくれた翻訳の勉強会です。

これに参加したことで、医療翻訳特有の言い回しや専門用語の使い方をより深く学びながら、主催者である医療翻訳会社の方に私のスキルアップの過程をアピールすることができました。おかげで、派遣社員3年後には、その方の会社にスカウトしていただき、現職に就くことができたんです。

 

――見事に医療翻訳者の夢を実現した井上さん。スカウトされるにあたって、勉強会で得たスキル以外では、どのような部分が評価されたのでしょう?

 

看護師資格を持ち医療の知識があることに加え、TOEIC®スコアとケンブリッジでの留学経験が評価されたのだと思います。留学の有無が問われたのは、英訳の際にネイティブに近いライティングができるかどうかの判断基準となるからです。

 

――現在の会社で6年、ベテラン医療翻訳者として、自身のスキル向上のために何かトレーニングをしていますか?

 

トレーニングというほどストイックなものではありませんが、毎日通勤時に海外の医学論文などをスマートフォンで読むようにしています。それと、私は現在、医薬品の副作用報告や医学論文などの和訳、英訳を中心に業務を行っていますが、医療翻訳者には、英語力だけではなく日本語力も必要です。和訳でものをいうのは、正しい言葉遣い。だからできるかぎり読書を心がけています。

 

英語のハローワーク:『医療翻訳者』
実務翻訳の中でも需要が高いジャンルが『医療翻訳』。医学論文や学術文書をはじめ、製薬会社、医療機器メーカーが新製品について厚生労働省へ承認申請をするための書類や、製品の取扱説明書など、医学・薬学に関わる翻訳(英訳・和訳)をする仕事です。医療関連の資格がなくとも実務翻訳学校の医療翻訳コースで学び、医療翻訳者になる人もいます。


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