グローバル基準のライフワークバランス
〜後編〜
ライフワークバランスコンサルタントに聞く
グローバル人材が実践すべきこれからの働き方
ライフワークバランスコンサルタントに聞く グローバル基準のライフワークバランス前編では、ワークライフバランスとは「ゆとりのある働き方」を指すのではなく、企業において効率と生産性をあげるための経営戦略だということが分かった。株式会社ワーク・ライフバランスのコンサルタント大西さんに海外やグローバル企業における「ラフワークバランス」の取り組みや、「グローバル人材」になるための働き方を聞いていこうと思う。
グローバル基準のワークライフスタイルとは?
今回お話を伺ったのは
株式会社ワーク・ライフバランス
大西 友美子(おおにし ゆみこ)さん
2003年日本アイ・ビー・エム・サービス株式会社入社。企業の基幹業務アプリケーションのアドオン開発等を担当。2011年株式会社ワーク・ライフバランスに入社。前職では、「ランチde英会話」など複数の社内コミュニティを自主的に立ち上げ運営。職場全体のスキルアップに寄与し、日本IBMのWeb Awardにてコミュニケーション賞を受賞。働き方の見直しコンサルティングでは、高いプロジェクトマネジメントスキルを活かし、多くのメンバーを巻き込みながら短時間で成果をあげる工夫についてアドバイスを行う。ライフでは、2児の母でもあり最近始めたウクレレに奮闘中。
――グローバル企業はライフワークバランスをどのように取り入れていますか?
ワークライフバランスはアメリカなどで、「不況を乗り切るため」の打開策として始まった経営戦略です。私が前職でいたIBMグループも女性が活躍している会社としてメディアなどに取り上げられていますが、企業はダイバーシティー(多様性)を取り入れないと世の中にニーズに合致しないという経営方針から女性がどんどん登用されていったという経緯があります。ワークライフバランスは日本では福利厚生というイメージが強いのですが、そうではなくてあくまで経営戦略です。
――グローバル人材になるためにワークライフバランスは必要だと思いますか?
日本が拠点で海外にビジネスを展開している企業が欲しいと思っている人材はまさにこの「グローバル人材」です。しかし、日本国内には「グローバル人材」と呼べる人材がおらず、このため日本の企業のグローバル化が進むと重要なポストは外国人が占めることになります。「グローバル人材」がいないということは多くの経営者の悩みの種です。「グローバル人材」になるには、いかに自分のライフの時間を使って経験、スキル、人脈を身に着けるかがカギになります。つまり、日本国内で「仕事しかしていない人は仕事ができなくなっていく」ということになります。ワークライフバランスを実現するというのは自分の健康のためではなく、仕事の時間を短くして、短い時間の中で成果を出して自分の時間を確保する。そして自分の時間の中で、いかに自己啓発をして経験を積み重ねるかというところなんです。今の仕事上での経験のみに満足してしまうと、今後道は無くなり、活躍する場もなく、魅力的な人材にもなれない。「ライフの時間」をどう使うかによって自分が「グローバル人材」になれるかなれないか決まります。例えば大使館ってボランティアに参加してみるだとかそういうものに目を向けられるか、行く時間があるかどうかで変わってくると思います。私自身は前職でインドや中国の方がいる中で、自分の中でも「ライフの時間」で役立ったと思うのが、外国人のママ友を作ったり、お家に伺って彼らの文化に触れたことです。宗教による食の違いなどを理解できたからインドの方が来た時に適切なレストランにご案内ができたりしました。また、仕事の関係で中国から来ているエンジニアの方達と一緒にバーベキューをしたりするうちに仕事上ではなかなか業務の時間ではできない話ができたりと、仕事以外での時間が役立った経験がありました。
――欧米諸国と日本のワークライフバランスにおける捉え方の差異があれば教えてください。
日本はワークライフバランスというとゆとりがある働き方で、仕事が中途半端でもいいから自分のライフを充実しようぜという感覚を持っている方もまだいますし、福利厚生だと捉えがちです。でも実はそうじゃなくてワークライフバランスを取ること自体が少子化対策になっているので、国は国家戦略としてやっているんです。そういった部分では捉え方が大きく違っているんじゃないかと思います。日本では男女共同参画というと女性のための施策だとか女性を擁護しようというような弱者救済措置のように思っている方が多いのですが、欧米諸国は経営戦略と理解しているところにも違いがあります。また、文化や背景が全く異なるので、一概にどこが良いかやそのまま真似られるものばかりではないとも言えます。例えば、北欧は男女平等というのは文化的に根付いていて徹底しているんです。スウェーデンはレストランのトイレは男女一緒ですし、女性だけが育児をすべきという考えも完全にないんです。スウェーデンは世界で初めて男女共に育児休暇が取れる制度を設けたんですよ。「男性も当然同じように育児をするでしょ」という観点があるのが特に北欧の考え方だと思います。
――ワークライフバランスがしっかりととれており、お手本になる国といえばやはり北欧ですか?
男女共同参画という観点ではやはり北欧がワークライフバランスの先進国であると思いますね。ノルウェーは女性の政治や経済の参画度合が高く、企業の役員の中の4分の1は女性で構成するクォーター制という制度があり、そういったものをいち早く取り入れているといった点では先進国として見習って行かなければならないと思います。しかし、「海外のワークライフバランスが取れている企業を真似したらいいでしょ」と言われることがあるのですが、背景や文化、移民がいるかなど大きな違いがたくさんあるので、一概にどこを真似すればいいっていう問題ではないのです。
――ワークライフバランスを取り入れて少子化など社会問題を解決できた国はありますか?
北欧の福祉が発展しているのは高齢者が多いからです。高齢者が多くても社会福祉制度をしっかりと充実させてワークライフバランスをきちんととるようにというところでは乗り越えている国々だと思います。「人口ボーナス期」から「人口オーナス期」への転換がこれが急速に進んでいる国といえば日本だけなので、そういった意味では全く同じ状況で乗り越えられた国はないと思います。逆に言えば、日本は今「人口オーナス期」の道を辿ってきていますが、中国、韓国とかが同じように追随してきてるんですね。日本がこの状況を乗り越えることでそういった追随する国の手本になります。
――アメリカをはじめとする欧米諸国は長時間労働や残業をどう捉えていますか?
日本国内において長時間労働がなぜ起こるかというと、長時間労働をさせても企業が損をしない仕組みということが要因としてあげられます。日本の法定労働時間は40時間で、アメリカも40時間なのですが、アメリカは40時間超えると割増賃金と言って50%上乗せした賃金がかかります。例えば時給1,000円だとしたら1,500円となるんですが、日本は25%しか割増賃金がなく、月に600時間以上の残業にならないと50%になりません。沢山残業をさせたからと言って無駄なお金を投資したという感覚がないんです。他の国を挙げると、例えばフランスは週35時間内の労働時間と法律的に決まっているのでそういった規制にからライフワークバランスに及ぼす大きな違いがありますね。
労働時間と割増賃金率に関する各国比較
●日本は諸外国に比べて、時間外労働割増賃金率が低く、平均残業時間が長い
日本 | アメリカ | フランス | 韓国 | |
法定労働時間 | 40時間/週
8時間/日 違反した場合は6ヵ月以下の懲役、又は30万円以下の罰金 |
40時間/週 故意に違法した場合、1万ドル以下の罰金又は6ヵ月以下の禁固又はその両方 |
35時間/週
1670時間/年 最長労働時間を超えて労働させた場合、第4種違警罪としての罰金を適用 |
40時間/週 違反した場合は2年以下の懲役又は1000万ウォン以下の罰金 |
時間外労働 割増賃金率ILO1号条約にて最低25%規定 (6条2項) ※フランス以外は未批准 |
25%以上
ただし、1ヵ月で60時間を超える時間外労働については50%以上 |
50% | 25%
1週間で8時間(法定労働時間との合計で43時間)を超える時間外労働については50% 労働協約により10%以上の割増賃金率を自由に規定することも可能 |
50% |
平均残業時間 | 61.8分 | 25.7分 | 24.5分 | 39.3分 |
平均労働時間 | 1765時間 | 1790時間 | 1479時間 | 2090時間 |
独立行政法人労働対策研究・研修機構「データブック国際労働比較2013」およびHP,JETRO「ユーロトレンド2013.4」OECD「iLibrary」
――日本と欧米における成果主義という意味で、意識や働き方の違いはあるのですか?
日本人が捉えている成果主義と海外の方が捉えている成果主義で大きく違うのは、日本人は4月の頭から3月の末までの期間でどれだけ山を積んだかということを成果主義とするんです。山を積むために長時間働けば働くほど時間がとれるので山を積んで成果結果を出そうとする。つまり期間あたりの生産性が日本の考える成果主義なので、残業代がつかなくてもみんなこぞって残業をする。一方欧米人が考える正しい成果主義というのは9時から6時という決まった時間の中でどれだけ山を積むか、時間当たりの生産性がどれだけあるかということなんです。そうなると必然的に長時間働く人は「あなたは評価に値しないよ」となると思いますね。そのあたりが大きく違いますね。前職で外国人の役員の方が、「どんなにアウトプットがよくても、時間をかけすぎる人はpoorだ」と表現していました。
――ワークライフバランスを重視しつつ、企業の業績を拡大することは可能なのでしょうか。
むしろワークライフバランスをちゃんと取れていないと企業の業績は上がっていかないと私達は考えています。なぜかというと、今日本人の人件費はすごく高い状態で、残業代払うだけで企業にとって負荷になります。また、長時間労働で体調を崩す人が増えて医療費がかかってしまったり、メンタル疾患や、月間の残業60時間超えてしまうと自殺率や過労死率が上がってくるんです。そうなった時に企業に対する訴訟の費用がかかってきてしまうので、多い所だと6千万円から2億円くらいかかります。そういった意味でもワークライフバランスがとれていない企業は衰退していくしかないかなと考えています。
――「人口オーナス期」に必要不可欠になってくるクリエイティビティを発揮するためにはワークライフバランスのとれた仕事をすることが大切なのでしょうか?
会議室や自分の職務スペースにずっといたところで、全く自分の引き出しって増えていかないと思うんです。仕事の進め方という部分では身に付くところもあると思うのですが、どこの会社にいても通用するスキルというのは身に付きませんし、アイデアや新しい人脈が全く得られない状態で「世の中のニーズに合った商品・サービスを考えて」と言われても、世の中の人が何に困っているのか、何が欲しいのか、どんな流行があるのか知らないのにそういう提案はできないですよね。そういうスキルを身につけるためにも色々なインプットというのは必要だと思います。どこの職場に持っていっても役立つスキルのことを「ポータブルスキル」と呼ぶのですが、「ポータブルスキル」は今後特に求められてくるでしょう。
今後、企業や社会にとって「魅力的な人材」になるためには、効率的に働き、自分の時間を確保し、その時間を用いて経験値や視野を広げ、そこで得た発想やアイデア、クリエイティビティを生かして仕事で結果を出すワークライフバランスが大切だということが分かった。さらにグローバルを舞台に仕事をするためには、上記であがってきたようなグローバル企業や欧米諸国の働き方や価値観、ルールを知ることも重要になってくるだろう。グローバルな活躍を目指すCheer up! Englishの読者のみなさんには、是非ご自身の゛バランス″を見つめなおし、余暇の時間には積極的に海外の人々とコミュニケーションをとり、異国文化の理解に努めるなど「グローバル人材」を目指して欲しい。
構成・文 高石真帆
取材協力 ワークライフバランス株式会社
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