外国語学習と外国暮らしが教えてくれるもの【25】

「世界の○○」はそんなにすごいのか

日本のアーティストなどが海外で認められるようになると、よく「あの人は今や世界の○○だ」という言い方をします。ところが、そのような表現は世界各地にあるわけではありません。なぜ日本人はこのようなフレーズを口にするのでしょうか。

「世界の○○」の意味は?

日本の舞台芸術の中には、ヨーロッパで高い評価を受けているものもあります。ある時私は、フランスの知人を相手に、フランスでも活躍していたダンス・カンパニーの話をしていました。

「彼らは世界の○○なのです。」と言おうとしましたが、うまく通じません。その場に居合わせた別のフランス人が
「そういう時は『世界的に知られている』と言うんだよ。」
と教えてくれました。この人もフランス人で、雑誌の編集長だったので、きちんとした表現なのだと思います。

因みに、世界的にその名を知られたダンス・カンパニーではありましたが、そこにいたフランス人の中で知っていたのはその編集長だけでした。考えてみれば、本国日本でも、多少ともアートに関心を持っている人たち以外は知らなかったわけで、当然といえば当然です。

 

世界では「世界の○○」とは言わない

アメリカやフランスで、「世界の○○」という表現を聞いたことはありません。「世界的に知られている」という言い方も、実際には見ることはありませんでした。そこで、私も徐々に使わなくなりました。

おそらく、世界にまだよく知られていない国や小さな国、さんざん辛酸をなめてきた国だったら使うのかもしれません。自分たちの国の誰かが「すごい」と言われたら、自分のことのように誇りに思い、慰められるのかもしれません。そう考えると、日本がまだ世界によく知られていなかった頃に「世界の○○」という表現が使われるようになったのだと思われます。

 

「世界」とは何のことか

「世界」とはどこにあるのか。普通に考えれば、日本もその一部であることは明らかです。しかし、この表現が使われるようになったころ、世界は遠く、広く、あこがれと恐怖の対象であったにちがいありません。

「世界」に追いつき、追い越すことが至上命令であった時代、「世界」に認められることはとてつもなくすごいことだったのでしょう。その頃の名残が、日本人がノーベル賞を取った時や、日本のどこかがユネスコの世界遺産に登録されたときなどに今も顔を出すのだと思います。

 

ライタープロフィール●外国語人
外国語としての英語、フランス語、日本語を学生や社会人に教えつつ、通訳・翻訳の経験を積む。新TOEICのスコアは985点。この世界の様々な地域で日常の中に潜む大小の文化の違いが面白くて仕方がない。子育て中。

 

 

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