外国語学習と外国暮らしが教えてくれるもの【31】
試験のリスニングと「現実の」英語
入学試験や資格試験に批判はつきものですね。そもそも人の能力を測るなどということは “能力のごく一部を測るにすぎないとしても” とても難しいことです。異論が出るのも当然でしょう。英語では、批判のひとつにリスニングテストの音声があります。現実の音声とは違うと主張する人もいますが、どうでしょうか。
リスニングの勉強にニュース番組を勧められて
リスニングが苦手だった時、ネイティブの先生に勧められたのはニュースを聞くことでした。
は?
苦手だと言っているのに、どうしてそんな難しいものを聞かなくちゃいけないの?
もっとゆっくりのものは無いの?!
しかし考えてみると、街の中で聞く英語はもっと聞きづらいはずです。
アナウンサーのようにきちんと口を開けて話してくれる人は少ないですし、同じ国のネイティブといっても、人によって発音の癖があります。訓練されたアナウンサーの喋りは、確かに良い教材になりうるでしょう。ゆっくりモゴモゴ話している人よりは聞きやすいですし、発音のお手本にもいいはずです。
もちろん、学習者のレベルやタイプによってリスニングに適した教材は異なります。今はYouTubeなどでも人気チャンネルがありますし、TEDトークを利用している人も多いでしょう。
先生の発音はわかりやすい
そういえば、日本語を教えていた時、日本に留学していた初級の学生たちによく言われたのが
「先生の日本語はきれいだからわかる。街の中で聞く日本語はわからない!」
そうですねぇ…、君たちもいずれはストリートの日本語が分かるようにならないといけないんだけどね… そう思いながらも、教師としてはきちんとした日本語をインプットするよう心がけていました。なぜなら、どんなに「正しい」発音をインプットしたところで、学生は少しずつそれに自分の色をつけていきます。そこには母語の影響はもちろん、その人にしかない癖もあります。だとすれば、最初にインプットする発音は、無色透明に近い方がいいのではないかと思ったからです。
TOEICやTOEFLの英語はゆっくりすぎるか
TOEICやTOEFLの英語も、ある意味無色透明な英語です。現実の世界では、人はもっと口籠ったり、独特なアクセントを持っていたりします。今ならマスクをしているかもしれません。第一、録音スタジオの中には雑音がありません!
「TOEICの英語はゆっくりすぎる。現実のビジネスはそんなもんじゃない。」と主張する人もいますが、それは速さというよりはむしろ発音がクリアーであるということかもしれません。文をきちんと最初から最後まで言っているということもあるでしょう。TOEFLの英語にしても同じことで、現実の大学教授はリスニング教材のように話してくれるわけではありません。語学の先生なら別ですが。
試験には公平性と客観性が必要
大勢の人々が受験するテストである以上、客観性や公平性を担保することは不可欠です。本番の試験では、会場の内外で雑音があったときはリスニングをやり直すこともあるくらいですから。
公平性を追求すると、どうしても無色透明な発音になります。アメリカならアメリカの、オーストラリアならオーストラリアの、イギリスならイギリスなりの無色透明さです。しかし現実の世界では、そんな風に話してくれる人はあまりいません。
今後もより良い試験を求めて試行錯誤が続くわけですが、「試験は現実ではない」という事実は、変わらないのではないでしょうか。
ライタープロフィール●外国語人 | |
英語、フランス語、外国語としての日本語を教えつつ、語学力に留まらない読む力、書く力を養成することが必要であると痛感。ヨーロッパで15年以上暮らし、とりあえず帰国。この世界の様々な地域で日常の中に潜む文化の違いが面白くて仕方がない。子育て、犬育て中。TOEIC®985点 |
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