外国語学習と外国暮らしが教えてくれるもの【38】
ひとつの単語に複数の意味―多義語なんか怖くはない!2
多義語を効率よく覚えるには、コアとなる意味に注目することが大切だと前回の記事で書きました。しかし、中には歴史的にコアとなる意味が複数ある単語もありますね。ところで、多義語と多義語ではない単語を区別することは、学習に役立つのでしょうか。そもそも、同じ単語にいつも同じ和訳をあてはめていいのでしょうか。
ふたつの語源を持つ単語
もともと異なる由来のふたつの単語だったのに、言葉の歴史の中で変化するうちに、たまたま同じ綴りの単語になったものもあります。
その場合は、コアになる意味がそもそもふたつあるわけです。
例えばclutch。
クラッチバッグでお馴染みかもしれません。「つかむ」という動詞や「つかむこと」という名詞としてよく使われます。
しかし、同じclutchに、「ひとかえりのひな鳥」「一度に産んだ卵」という意味もあるのです。
ふたつの意味をどうやって関連付けたらいいのかわからなくなってしまいますよね。それもそのはず、元は別々の単語だったようです。
辞書を見るとclutch1, clutch2とふたつの見出し語で同じ綴りの単語が並んでいます。別のものとして覚えるか、自分流の工夫を編み出すしかないでしょう。
ほとんどすべての単語は多義語である
ひとつの語源から複数の意味が派生した場合は、辞書でもひとつの見出し語にまとめられています。
よく使う単語で、ひとつの単語にひとつの意味、使い方しかない場合というのは、稀なのではないでしょうか。文脈によって、和訳だけではなく、指し示すものも変わるのが普通です。ひとつの外国語にひとつの日本語が相当する、そのようなきれいな対応関係にはなっていません。
handという誰でも知っている単語を取ってもそうです。
the minute hand
(時計の分針)
She works as a farm hand.
(彼女は農場労働者として働いている。)
Let’s give this band a big hand!
(このバンドに盛大な拍手を!)
sayも「言う」だけではありません。
The newspaper says two police officers have been wounded.
(新聞にはふたりの警察官がけがをしたと書いてある。)
I cannot say when she will come.
(彼女がいつ来るかわからない。)
Do you like Japanese food, say sushi or ramen?
(あなたは日本の食べ物が好きですか?例えば寿司やラーメンとか。)
こう見てくると、「多義語」という特別な単語があるのではなく、たいていの単語はそもそも多義語だという気がします。
前から何度も述べていますが、言葉はひとつの単語だけで機能するものではありません。特別な場合を除けば、すべての単語は他の単語との連なりの中で意味を成すものです。ですから、出会った文章や会話の中でその単語の意味を捉えればよいのではないでしょうか。単語を学ぶとき、いつも例文と一緒に覚えなさいと言われる理由のひとつもそこにあります。
ライタープロフィール●外国語人 | |
英語、フランス語、外国語としての日本語を教えつつ、語学力に留まらない読む力、書く力を養成することが必要であると痛感。ヨーロッパで15年以上暮らし、とりあえず帰国。この世界の様々な地域で日常の中に潜む文化の違いが面白くて仕方がない。子育て、犬育て中。TOEIC®985点 |
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