外国語学習と外国暮らしが教えてくれるもの【15】

「英語は通じればいい」は危険

間違えるのが怖くてなかなか英語を喋れない人がいる一方で、間違えているかどうかまったく気にしない人もいるようです。英語は意味が通じさえすればそれで充分なのでしょうか?

言葉が話せることと人柄は関係があるでしょうか?

「英語が話せる人はかっこいい!」と思っている日本人はいるかもしれません。しかし、外国語が話せることと、その人の人格や頭の良さとに関係があるかと聞かれれば、おそらくほとんどの人はノーと答えるでしょう。

片言の日本語しか話せない外国人を見て、「何も言えないから何も考えてないんだ。」と思う日本人はもっと少ないでしょう。

では、他の国に行ってその国の言葉も英語も話せない場合、同じように分かってもらえるでしょうか。

 

言葉による表現が重視される欧米社会

国による違いや職業による違いなどいろいろあり、「欧米」とひとことで括ってしまうのはあまりにアバウトではありますが、ヨーロッパで暮らしていると、「言葉」が重視されているのに驚くことがあります。

例えば道を聞くとき、最高に丁寧な言葉遣いで聞くと、最高に丁寧に扱ってもらえます。きちんとした言葉遣いができなかったり、自分の意見を言えなければ馬鹿だと思われる可能性もあります。また、同じ内容のことを言ったとしても、文法がめちゃくちゃだったり下品な言葉遣いをしたりすれば、教養のないやつだと思われかねません。

 

映画『マイフェアレディ』が意味するもの

ここで思い出すのはミュージカル『マイフェアレディ』。映画版はオードリーヘップバーンの主演で、日本でも名画として未だに人気があるのではないでしょうか。ロンドン訛りで乱暴な言葉遣いをする貧しい花売り娘が、言語学者に教育されて貴婦人に仕立てられていく物語です。

私はヨーロッパで暮らすまで、この映画の意味が本当にはわかっていませんでした。つまり、言葉遣いだけでどうして貴婦人になれるのか、ということです。それは、言葉遣いで社会階層や育ってきた環境がわかってしまうからなのです。原作『ピグマリオン』を書いたバーナード・ショーは、言葉や教育、富によって分断された社会を描いてみせたのでした。

 

学校で悪い言葉遣いをすれば罰せられることも

今はショーの時代と違って、子どもたちは義務教育で「きちんとした」言葉を使うようしつけられます。下品な言葉を使ったということで生徒が罰を受けることもあります。(もちろん体罰は禁じられていますから、たっぷり宿題を出されたり、休み時間に遊べなかったりという罰です)

「だってパパもこういう風にしゃべってるよ!」と言う子も中にはいます。場合によっては親が呼び出しをくらいます。

下品な言葉を使うより、暴力やいじめの方がよっぽど問題であるはずですが、ほかの子を侮辱した子と下品な言葉を使った子の罰の程度は同じくらいのこともあります。

 

カタコトだと頭の中までカタコトだと思われるかも

発音やちょっとした文法、単語の間違いを気にする人もいますが、相手に間違いだとわかるミスはたいしたことはないとも言えます。誰だって間違えることがあります。

ただ、こちらの意図を誤解される間違いは避けなければいけませんね。知らずに失礼な言い方になってしまったり、やる気がないと思われたり、知性を疑われたりしては残念です。

 

言葉はそれほど軽くない

言葉より実態が大切で、言葉が偏重されるのは問題があるのではないかと言いたい人もいるでしょう。まったく同感です。一方で、言葉の扱いが軽過ぎるのもどうかと思われます。何を言うか、どう言うかということも、その文化を形作る重要な要素なのではないでしょうか。

 

ライタープロフィール●外国語人
外国語としての英語、フランス語、日本語を学生や社会人に教えつつ、通訳・翻訳の経験を積む。新TOEICのスコアは985点。この世界の様々な地域で日常の中に潜む大小の文化の違いが面白くて仕方がない。子育て中。

 

 

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